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整形外科

犬では一昔前にくらべ、交通事故による骨折等の整形外科疾患は非常に少なくなっている。
放し飼いの家庭の減少によるものと思われるが、対し超小型犬の室内飼育が多くなっているため、ソファーや階段からの落下や抱っこしていての落下事故などの家庭内での事故による骨折が増えている。また、先天性・遺伝性疾患、特に膝蓋骨(膝のお皿)の先天性脱臼の割合が急増しているように思われる。
ネコにおいてはいまだに交通事故が多数を占める。
以下に、当院で行った代表的な整形外科手術を示します。

前肢

●橈骨・尺骨遠位骨折(ソファーからの落下)

プレートとスクリュウによる固定
【術 前】
【術 後】
 

術後2か月(プレート、スクリュウ抜去)

●子犬の橈骨・尺骨骨幹骨折(車助手席よりブレーキ時落下)

プレートとスクリュウによる固定
【術 前】
【術 後】
 

術後1か月(スクリュウの間引き)
 
  術後2か月(プレート、スクリュウ抜去)
2か月の間に無事に骨の伸展成長がみられる

●橈骨・尺骨近位の粉砕骨折(交通事故)

中和プレートとスクリュウによる固定
【術 前】
【術 後】
 

術後2か月(スクリュウ抜去。プレートは温存)

●上腕骨中央のらせん骨折(交通事故)

2本の髄内ピン・ラグスクリュウ・創外固定の併用による固定
【術 前】  
【術 後】
術後2か月(ピン、創外固定器抜去)

●橈骨成長板骨折(Salter-Harrs Ⅰ型)(ボール遊び後発症)

2本のラッシュ・ピンによる固定
【術 前】  
【術 後】
 
術後1か月(ピン抜去)

骨盤

ねこの交通事故において1番多くみられる骨折。
そのまま放置するとのちに骨盤腔の変形狭窄癒合となり、将来的に排便障害(便秘)をきたす可能性が高いため、歩行可能な状態であっても正しい位置での固定整復が必要である。

     
過去の骨折による変形癒合のため生じた便秘(巨大結腸)

●仙腸関節の脱臼、骨折および恥骨、坐骨骨折(交通事故)

ラグスクリュウと経腸骨ピンによる固定
【術 前】 【術 後】
恥骨、坐骨は動物において体重負荷および運動に直接的な影響が少ないため、整復が必要になるケースは少ない。

●仙腸関節脱臼、腸骨幹骨折、大腿骨骨幹の粉砕骨折(交通事故)

仙腸関節脱臼:ラグスクリュウと経腸骨ピン
腸骨幹骨折:プレートとスクリュウ
大腿骨骨幹の粉砕骨折:ラグスクリュウと中和プレートによる固定
【術 前】
【術 後】
 
  術後2か月(腸骨のプレート抜去およびスクリュウ間引き)
 
術後3か月(大腿骨のプレート抜去)
 

●仙腸関節の脱臼および恥骨、坐骨体骨折(交通事故)

ラグスクリュウと経腸骨ピンによる固定
【術 前】
【術 後】
 

●腸骨幹骨折および寛骨臼骨折(交通事故)

大転子骨切り術により寛骨臼骨折へアプローチ
プレートとピンおよび2本の髄内ピンとテンション・バンドワイヤーによる固定
【術 前】
【術 後】
 

●中足骨の骨折(原因不明)

誤って踏んづけたり、重いものを足の上に落としたりした事故で発生することが多い。
2本のクロスピンによる固定
【術 前】  
【術 後】
術後1か月(ピン抜去)

●子犬の大腿骨骨幹の骨折(飼主が誤って踏みつけてしまった)

2本の髄内ピンによる固定
【術 前】
【術 後】
術後1か月(ピン抜去)

●Monteggia骨折(尺骨近位骨折に橈骨の脱臼を伴う)と肘関節脱臼(屋根より落下)

Monteggia骨折:プレートとスクリュウ、1本の貫通スクリュウによる橈骨固定
【術 前】  
【術 後】
術後2か月(スクリュウ、プレート抜去)

膝関節内方脱臼(先天性が多い)

小型犬、特にトイ・プードルでの罹患が非常に多い。グレード(重症度)により内科治療(疼痛管理)にて経過観察することも可能だが、グレードの高い症例には手術での治療が必要となる。放置すると、起立、歩行困難、靭帯損傷等のリスクがある。

5才 トイ・プードル
幼犬時より、膝関節の脱臼を近医にて診断され、痛みのある時のみ鎮痛剤およびサプリメントを処方されていた。最近、速足になると常には行(足を上げる)するとのことで来院。
診察にてグレードⅢの先天性膝関節内方脱臼と診断。脛骨の湾曲も重度に認められていたため、5才という年齢と今後起こりうる可能性をご説明し、手術となりました。
大腿骨滑車溝形成術
内側関節包解放術および外側関節包縫縮術
脛骨粗面転位術
同時に内側変位した四頭筋群の正常位配列の維持ため一時的に大腿骨遠位にスクリュウを設置しました。

手術前
左右の膝関節内方脱臼と脛骨の湾曲変形
四頭筋群の仮想ラインが内側に変位している
手術直後(膝関節が正常位にある)
術後1か月で固定に使用していたピンおよびスクリュウを抜去。
四頭筋群の仮想ラインもほぼ正常位にある

この症例は、対側の足は痛みを出していなかったが、術後今まで一度もできなかった階段の上り降りもできるようになり、飼主の希望により対側の足にも予防を兼ねて1か月後同様の手術を実施いたしました。

脛骨形成不全症(脛骨異形成症)

脛骨形成不全症はM・ダックスフンドの骨成長期に多く発生する疾患で、脛骨遠位内側の成長が早期に停止し外側だけが成長を続けるため、内反、内旋、前屈といった変形を引き起こす。変形は骨成長がストップする7~8か月齢まで進行し、変形具合によりさまざまな程度の跛行がみられる。痛みを伴う重度な跛行を示す症例は少ないが、歩行時に、いわゆるうさぎ跳び様の後ろ足をジャンプして歩くといった症例は多い。歩行異常が重度な場合は手術によって変形を矯正することができる。


左後肢の変形があるM・ダックスフンド

術前
 
脛骨の矯正骨切り術(脛骨内側の開放骨切り、ロッキングプレート使用)実施1か月後
脛骨遠位の変形が解消されている