癌・腫瘍科
現在では犬猫においてもがん発生率は10歳以上では50%近い数字となっており、それに伴い獣医療におけるがん治療も急速に発展し新しい治療法も開発されています。
従来の外科療法、化学療法(抗がん剤)に加え、放射線療法も動物にも使用可能となっています。近年では補助療法としてがん免疫療法という自己の免疫防御システムを利用した治療も注目を集めています。
以下に日常よく遭遇する代表的な腫瘍科疾患を示します。
皮膚肥満細胞腫
肥満細胞腫は犬猫ともに発生率の高い皮膚の悪性腫瘍です。日常診療においても非常によく遭遇する反面、診断治療には非常に注意が必要である。
発生部位は皮膚・皮下のものが一番多いが、そのほかにも胃、腸管、舌、脊椎、肝臓、脾臓、肺などあらゆる臓器に発生が認められる。また、外観も発赤を伴うものやそうでないもの、大きさも数mmのものから巨大なもの、さらには日によって大きさが変化するものもある。そのため「肥満細胞腫は偉大なる詐欺師である」と言われることもある。
ただし、早期に発見し適切な手術、必要に応じて術後の補助治療などを行うことにより完治も可能な腫瘍である。最近では放射線治療を組み合わせたり、腫瘍の遺伝子検査を行い分子標的薬という副作用の少ないお薬を投薬したりといったことも可能となった。当院でも積極的に遺伝子検査を治療に取り入れ、好成績を得ている。
膝にできた巨大な皮膚肥満細胞腫 | |
猫の耳下にできた肥満細胞腫 |
乳腺腫瘍
乳腺腫瘍はメスの犬に発生する腫瘍の中で最も多いといわれる。また、ホルモンの影響を強く受けているといわれているため、若齢期に避妊術を行うとその発生率が劇的に低下することが知られている。特に2回目の発情までに手術を行うことで、リスクが10%以下におさえられるとされている。
犬では、その約50%が悪性とされ、さらにその50%は早期に転移を起こす。しかし逆に考えると乳腺腫瘍の約50%は良性であり、悪性であったとしてもその50%は早期に手術を行えば完治可能であるといえる。そのため、経過観察するのではなく、早期に診断治療することをお勧めします。
ちなみに猫においては、約80%が悪性であり、そのほとんどが乳がんとされ悪性度が非常に高い。よって犬よりもさらに早期発見が重要となる。
複数の乳腺にしこりがあることもある | 複数の乳腺に腫瘍が見られる (一部はかなり巨大化し、 黒ずんでいる) |
腹腔内腫瘍
おなかの中には、胃、腸、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、膀胱、リンパ節などいろいろな臓器があるが、そのすべてで腫瘍の発生がみとめられる。
症状は、腫瘍に侵された臓器によってまちまちだが、多くは嘔吐や下痢、食欲不振、体重減少といった非特異的な症状がほとんどで、なかにはまったく無症状の場合もある。そのため健康診断での触診時に偶発的に発見されるといったことも珍しくありません。
血液検査でもまったく異常がないことも多いため、診断には超音波検査やレントゲン検査、CT、MRI検査等を併用し、最終的に病理検査によって確定診断をつけることになる。
パグ犬にみられた小腸腺癌 |
リンパ腫、腸間膜リンパ節の腫大 |
ネコの脾臓にみられたリンパ腫 |
フェレットの円形型脂肪肉腫 |